術式についての留意事項
ヨーサガンクリニックでは2017年5月現在、より確実かつ安全に声の女性化を行うため「甲状声帯襞縮小手術」は、術前カウンセリングかつ手術時に声帯の状態が問題がないと医師が判断した場合のみ実施しています。
年齢が比較的若い場合は「甲状声帯襞縮小手術」での手術が選択できる可能性が高くなりますが、原則「改良された輪状甲状軟骨接近術」*で手術を行い、この手術で声の高さが変わらなかった場合、1年後に「甲状声帯襞縮小手術」にて修正手術を行います。修正手術の見積には、ソムヨット医師により声帯の状態の確認を受ける必要があります。
つまり、ヨーサガンクリニックでの声の女性化には、万一、声の高さが変わらなかった場合に修正手術を行うという保証が含まれているのです。
その為、初回手術を「甲状声帯襞縮小手術」でなく、「改良された輪状甲状軟骨接近術」*で行う場合でも、手術費用は同一で術式による手術費用の変動はありません。
ソムヨット医師の「改良された輪状甲状軟骨接近術」の特徴:
- 術後すぐに声を出す事が出来る(ダウンタイムが最小限)
- 自然な高さの声(高すぎて違和感のある声にならない)
- 術後に声が元に戻ってしまうことが稀(強力な縫合糸を利用)
- 喉仏の突出を最大限無くすことが出来る(同時に喉仏切除をした場合)
*「改良された輪状甲状軟骨接近術」と呼ばれる術式は、強い医療用縫合糸を使い輪状軟骨と甲状軟骨を物理的に接近させ、声帯を緊張した状態にするという従来の「輪状甲状軟骨接近術」をさらに改良・向上させた術式で、術後に縫合糸が切れることも非常に稀です。この術式はヤンヒー病院などが有名ですが、ヤンヒー病院で従来の「輪状甲状軟骨接近術」を行う医師は、ヨーサガンクリニックの執刀医であるソムヨット医師から術式を教えられた医師たちです。
甲状声帯襞(こうじょうせいたいへき)縮小手術
抜粋
今日まで、男性のトランスセクシャルにおける声のピッチ変更手術に関する文献はあまりありません。現在のピッチ高上手術の技術では長期間の結果を出す事が出来ず、手術によって得たピッチでは女性の声とするには十分高いものではありません。
そこで我々は声のピッチを変える新技術を研究しました。 甲状軟骨の節に従い外部甲状軟骨の帯を垂直に複合的に切除する事によって声帯靭帯を短くします。
この方法により手術前平均147 Hz であった声のピッチが315 Hz までになりました。最長持続期間は6年間でした。
甲状声帯靭帯切除は、男性から女性へのトランスセクシャルにおいて、長期間声を変化させる事が出来る効果的方法です。 性転換がグローバル社会の一部として受け入れられる様になり、たくさんの医療・手術、特に心身を一致させる身体的変換が可能となりました。
男性から女性への性転換はその逆の場合より一般的です。経口・非経口共に女性ホルモンが幅広く使われています。
女性ホルモンによって皮膚はより明るくなめらかに、そして胸は大きくなり、女性的になると信じられています。
男性から女性へと性転換をなさる方が希望する一般的手術は、眼瞼形成手術、眉毛・睫毛マイクロピグメンテーション、鼻整形手術、下顎輪郭形成手術、豊胸手術、突起した甲状軟骨の縮小、性器転換等です。これらの手術を組み合わせる事により女性の姿に近づく事が出来ますが、声が男性的の為、社会の中で気まずい思いをする事が多いのも事実です。しかしながら声帯ピッチの変更希望に関しては、変更手術が可能であるという事実があまり浸透していない為、それほど多くありません。
文献の中には男性トランスセクシャルにおける声帯ピッチ変更に関する技術がそれほど多く載っておりません。現在は異常に低ピッチである女性の患者さんの声帯ピッチを上げる事を主な目的としています。
声帯ピッチは時間が経つと元のレベルに戻ってしまう為、手術の効果は一時的で、ピッチを上げる手術のその効果は、女性の声の範囲に達するには十分ではありません。更にある技術は既に突起した甲状軟骨に重きをおいてさえいます。
この論文には問題が発生するいくつかの新方法が報告されています。
患者と方法
1990年~1996年にかけて、男性から女性への性転換を行った20~27歳(平均年齢23歳)の6名の患者が当研究(甲状声帯襞縮小手術)に参加しました。
全ての患者には手術前に身体・精神チェックが施されました。
その内の5名は性器転換の手術を既に受けており、6名全員がエストロゲン及びプロゲステロンを服用、もしくは筋肉への注射によって何年もの間定期的に使用していました。
患者の外見は肌のつやが女性の様になめらかで明るい事を除いては一様に男性的でした。
全患者の外部甲状軟骨隆起(のどぼとけ)は高く隆起しており、典型的な男性の特徴を示していました。
内部喉頭構造に関しては女性の様な声を出すべく声を造る努力をしており、元来の声帯はボリュームがあり男性的でした。
特に女性の声を造ろうとしているにも関わらず、声は男性的でした。これは特に咳やくしゃみをした時に顕著に見えました。
精神科医によって精神的には安定していると判断されました。 手術前後におけるテープ録音、スペクトログラフィー、最大発声時間、基本周波数測定、 VISIPITCH M 3300 (アメリカ)を使用したジッター・シマー等の客観的な声の査定が行われました。
研究時において我々の機関では用意されていなかった為、ストロボスコープ試験は行われませんでした。
全患者からはインフォームドコンセント得ていました。
手術のテクニック
全身麻酔後、患者は頭を下げた形の姿勢をとります。上甲状切痕と下甲状軟骨のちょうど真ん中に、長さ4cmから6cmの頸部横切開をおこないます。
上下の皮膚弁ができ、帯状筋が半分に分かれ、甲状軟骨が露出します。
軟骨膜の上昇をさせず、甲状腺鼻翼の横、真ん中から4mmの場所、または上甲状軟骨の境界線と下甲状軟骨の境界線から始まる前交連に、平行した縦の切開を行います。
前交連腱が付着している軟骨の一片が前方に引っ張られ、内部の粘膜、軟骨とともに声帯靱帯が露出します。
この段階で甲状軟骨の内側面において声帯の損失を最小限に留めることは、声帯の伸縮を容易にします。
切開の前にきちんと声帯を引っ張ることは非常に重要です、なぜなら、前甲状軟骨の合わせ目でより長く声帯部分を削ることが可能だからです。
そして、声帯は組織の削られた部分が付属の靭帯と声帯の前部で前甲状軟骨から成るように、双方で切開されます。
切除された声帯靭帯の長さは、片側それぞれ約6ミリとなり、切除した前甲状軟骨よりも約2ミリ長くなります。
縫合は3-0ナイロンもしくはプロリンが用いられ、最初の縫合を声帯レベルに合わせ、残りの甲状軟骨と声帯を含んだ咬合となるよう行われます。
残りのステッチで甲状軟骨閉鎖を完了し、管が挿入されます。帯状筋は中央線で再接合され、皮下、および皮膚閉鎖は各層ごとに行われます。
患者は、少なくとも2週の間、声を出すことを禁じられ、手術の後一ヶ月間は2週間ごとに、その後は1-2ヶ月ごとに経過検診を行います。
結果
主観的に、全患者は自身の声に満足していました。
患者の一人は海外へ行き、もう一人は追跡検査をする事が出来ませんでしたので、初期の術後結果のみの入手となりました(5~12ヶ月)。
最終追跡検査において、患者さんの声は女性のそれと近いものでした。
全患者さんは2~6年間の追跡検査時において女性範囲のピッチを保っていました。
手術前後の基本周波数はそれぞれ100~172 Hz (平均147 Hz )及び264~420(平均315 Hz )、手術前後平均シッターはそれぞれ2.35%及び0.98%、そして手術前後平均シマーはそれぞれ0.82 db 及び0.69 db でした。平均最長発声持続時間は手術前で15秒、手術後で13秒でした。
2名の患者さんは術後1~2ヶ月で前交連部分に肉芽組織が見られ、これらはマイクロラリンゴスコピック方法を通し、炭酸ガスレーザー気化にて十分にケアを行いました。
議論
現在声のピッチを上げる方法には、実証された2通りの方法があります。
輪状甲状軟骨接近術
声のピッチを変更させる最初の手術方法です。
その名の通り、甲状軟骨及び輪状軟骨を縫い合わせて声帯を張らせ、声のピッチを上げます。
この方法は 日本の一色医師 によって1976年に導入され、2名の患者に対し行われました。
その後1983年に更に11名の患者に対して行い、声のピッチを上げる事に成功しました。彼の2度の手術における主な対象は声の低い女性でした。
しかしながら、この手法を用いてピッチを上げようとしても度々効果が現れず、縫合が必然的に解けてしまう為、後退が起きていました。
(現在は改良されています。)
声帯靭帯伸張技術
この手法は「Lejeune et al」 によって生み出されました。手術の原理は同様に声帯の張力を上げる事にあります。
Broylei 靭帯が付随している前部甲状軟骨に長方形もしくは三角形の下部型皮弁を造る事によって手術を行います。
その後この皮弁を前方に引き、タンタルシムによって固定します。
これらの手術は年齢、外傷、又は特発性疾患によって声帯筋の張りが失われた患者さんに対し行われます。
初期の結果は一定的ではありませんでしたが、持続期間は長くありませんでした。
同メカニズムに基づき、 Tucker はより大きな変位によってより優れた結果を見出す事が出来る上部型皮弁を提唱しました。
彼は声帯が弛緩している8名の患者に対しこの手術を行いました。
全患者に直ちに良い結果が見られる様になりましたが、その結果が6ヶ月以上持続したのは3名のみでした。
これら手法によって声のピッチを上げる事は可能です。声のピッチに影響を与える生理学及び要因を良く理解する為に以下における形式を頭に入れておいて下さい。
Where Fo = 基本周波数 L= 真声帯の長さ T= 平均縦応力 P= 組織の厚さ この形式より声帯靭帯の全集合体を短くする又は減らすか、もしくはその張力を増やすか、もしくはベストな結果を出す為にその両方を行う事によって声のピッチが上がる事は実証されており、前述した技術のメカニズムは、例えば声帯の伸張等、ある一つの要因に言及しているに過ぎません。
Proctor8 が、張力が増す事によっていかに真声帯が薄くなるか、と言う事を述べたとしても、全真声帯の集合体が減る事はないのです。この様に、前述の技術の中では声帯を伸張させる事が唯一声のピッチを上げる事になるのです。これで声のピッチが何故充分でないのかが説明がつきます。
当研究では、伸張されている間に甲状軟骨を切開し、それらを取り除きました。これは残っている声帯を甲状軟骨の前後径より短くする為のもので、その結果として短く張りが出ると同時に声帯集合体を減少させる事が出来るので、声のピッチを上げるのに必要な全要因が揃う訳です。更に甲状軟骨の前部分を切除する為、患者さんが望んでいらっしゃる甲状軟骨の突起が減るという利点もあります。
これは前述の声帯を引く技術では不可能です。興味深い事にこの研究では、平均基音が大変高い結果となったにも関わらず、誰一人として異常に高い声を出す様になった患者さんはいませんでした。
この技術における欠点:
1.全身麻酔が必要であり、主観的音声のモニタリング、もしくはそのテストが不可能です。その為切除する声帯靭帯の長さを予測する必要があります。
2.この技術によってデリケートな内部喉頭構造が変化します。結果的には満足出来る物であっても、更なる手術技術、特にベストな結果を出す為に切除する声帯の長さを改善させる必要があります。当技術は声の質を変えてしまうというリスクがある為、プロの歌手の方にはお奨めできません。
結論
男性のトランスセクシャルにおいて、声のピッチを上げる新手法である甲状声帯縮小手術は、前方交連の切除も含みます。
容認範囲の声質にて、女性のピッチ範囲までに声ピッチを変化させる事が出来、その結果は長期間持続します。
術前・術後の音声サンプルです
声の高さだけでなく、「抑揚」等にも注目しながら聞いてみてください。
※データはmp3形式です。再生する際は音量にご注意ください。録音環境により雑音が入っていることがあります。
★以下の4つは、例文を非当事者の方に読んでいただいたものです。
※急に音が出ますのでご注意下さい。
【参考】◆女性1・40代
【参考】◆女性2・10代
【参考】◆男性1・20代
【参考】◆男性2・10代
ここから下は当事者の音声です。手術前の音声は当事者の方に提供していただいたものです。
※当事者2:声帯癒着による嗄声のため、ヨーサガンクリニックでの手術から約2年後に「声帯ケナコルト注入術」をされた方です。
術後・2年弱 →ケナコルト注射直前
術後・2年 →ケナコルト注射1ヶ月後
■当事者3・40代・ヨーサガンクリニックにて手術
手術前に録音された声(音が小さいです)
術後・3週間後
術後・4週間後
術後・5週間後
術後・6週間後
術後・2ヵ月後
術後・3ヵ月後
術後・4ヵ月後
術後・5ヵ月後
術後・半年後
術後・7ヵ月後
術後・7ヵ月後(高くした声)
※手術後の発声開始許可が2週間後。その後から細かく録音したデータを送っていただきました。「徐々に声に芯が出てくるまで」がよくわかります。ありがとうございました。