SRS手術に伴う入院の重要性を痛感~日本国内でSRSを受けられたMtFの方のブログ記事を読んで
2024年2月6日より、タイSRSガイドセンター公式ブログをblog.thaisrs.comよりthaisrs.comへ移転しております。一部、表示の乱れなどがございますが、予めご承知ください。
記者:
Rinako
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2018年3月8日
1,321
こんにちは、初めまして。MtF当事者のRinakoと申します。
(私の概歴はこの記事の下の方にある「この記事を書いた人」を見てくださいね。)
私は昨年、2017年5月にタイSRSガイドセンターさんのお世話によりガモン病院にて陰嚢皮膚移植法(反転法ではありません 。 ;-) )によるSRSを受けました。
このたび、代表の横須賀さんのご好意により「SRS奥の細道」ブログに、不定期ではありますけどSRS経験者として記事を投稿させていただくことになりました。
昨年私の個人ブログに載せていたタイSRS滞在記からの抜粋やSRSにまつわる諸々、そしてトランス全般に関わることなど、私自身の経験から感じたことなどを綴って行けたらと思います。もしもご意見やご感想、ご質問などがありましたら、ぜひコメントをくださいね。
さて、最初の記事となる今回ですが、やはりタイ滞在記からと思っていましたがちょっと予定変更です。
今回は外科手術に伴う入院の重要性について考えてみたいと思います。
先日、国内の某クリニックで数年前に造膣を含むSRSを受けられたあるMtFの方のブログ記事を拝見しました。そこには、国内のGID治療の世界では比較的名の知れているそのクリニックでの、ちょっと信じがたいSRSの実態が綴られていました。
いくつも驚くようなことが書かれている中で、私が一番怖いと感じたことは「術後の入院が無い」ということです。手術の翌日には近所のホテルに移動させられ、10日以上もの間、トイレも食事も全て自力、医師が診にくるわけでもなければ、看護師による毎日の観察や消毒等の処置すらも一切なし。。
SRSってそんなに簡単に考えてよい手術なんでしょうか?ましてや造膣ありです。腕や足をケガして数針縫ってそのまま自宅に帰って療養、、みたいなノリで大丈夫なんでしょうか?
確かに、SRSはそんなに大変な外科手術ではない、と仰る外科医もいますけど、それは入院の必要性ということとは次元の違う話だと思います。
そもそもなぜ入院が必要でしょうか。。ホテルでの療養とどう違うのでしょうか。
まずは衛生面。ホテルのベッドが不衛生というのでは無いのです。しかし病院のそれと比べればやはり次元が違うと思います。身につけている衣類にしても、入院中ならば毎日でも衛生的な入院着に取り替えてもらえます。しかしホテルでは自分で用意した楽な部屋着程度のものになるでしょう。
次に毎日必要な患部の処置等。ガモン病院では入院中は1日2回、患部の消毒やガーゼ等の取替え、体の清拭があり、その都度看護師が詳細に患部の状態をチェックしてくれます。また検温や血圧といった体調に関わるケアも毎食ごとに行われます。万が一異常事態になれば、院内ですからすぐに必要な処置を受けることが可能です。
どれも普通のことのように思えますけど、ホテルでの滞在ではそうはいきません。
導尿カテーテルは入ってはいるものの、採尿バッグもなく、血液や体液を排出するためのドレンチューブもないようです。それゆえ血まみれのオムツやシートがすぐに溜まっていき、ホテルの部屋の中は古くなった血液の匂いが充満してまるで地獄のよう、と書かれていたのが印象的です。
そして安静でいられること。患部が健全に治癒するための一番の近道は安静に尽きるというのは誰にでもわかることでしょう。少なくとも術後の数日間は安静でいられることが望ましいのです。そして治癒が早ければその分感染症などのリスクもずっと低くなるでしょう。病院のベッドはそのための機能に特化した造りですし、看護師さんやアテンドのスタッフさんたちも全力でその環境を提供してくれます。
ホテルのベッドは寝心地は良いと思いますけどそれだけですよね。
1メートル動くのも辛いのに、1日に何度も起き上がってトイレに行かなければなりません。食べなくてはという思いから、食事の段取りもしなければなりません。
これに比べたら、家族が居て自宅で療養する方がまだマシかも知れません。
もちろん治癒力には個人差があるので、劣悪な環境でも乗り越えてしまう人はいるでしょう。しかしこの方の患部は化膿し、ダイレーションはおろか、手術から数年経った現在も酷い状況が続いているにも関わらず、執刀医は取り合わないと言う無責任なお話し。。他院に救いを求めても、よその患者さんという扱いで思うようにならず。。本当に胸が痛みます。
ご本人はブログの最後にこう綴っています。
「手術から6年近く経っています。人生無駄にしてしまいました。今6年前に戻れるなら手術はタイへ行きますね。間違いなく!」
切実な本音だと思います。
しかしなぜこのような医療機関での手術を選んでしまう人がいるのでしょう。
よほど手術費用が安いのでしょうか・・・
でも調べてみたらそうでもありません。某クリニックが公表している料金は、造膣ありのSRS(反転法)で106万円。Q&Aの方におよそ130万円程度と記載されています。これにホテル滞在費や国内での旅費などがかかるのでしょう。
ではガモン病院で同様の手術(SRS2)を選ぶ場合はというと、すべて込みでおよそ140万円程度です。これに退院後の小遣いなど数万円あれば十分なのです。
もっとも、今後国内の一部の適切な医療機関では保険適用が進められるようですので、運が良ければ今までよりもずっと低料金で真っ当な医療機関でのSRSが受けられるようになるかもしれません。ただ予約待ちが半端ではないとも聞きます。待ちきれずに不適切な医療機関での手術を選択してしまったら悲劇としか言いようがないと思うのです。
また前述の一連のブログ記事を読んだ他の方がこんなことをコメントしています。
「日本より国外の方が性別適合手術の技術が進んでいると聞きますが、国外では、ただ手術の経験数が多いだけで、手術を受ける側の身体の負担は、国外も国内も同じなのです。」
私はそうは思いません!経験数はケタが違いますし、そこから来る技術の差は歴然、ひいては患者の受ける身体的な負担も桁違いといっても過言ではないと体験上感じています。
今では過去のものになってしまったと思える「メイドインジャパン神話」。医療の世界にはまだまだこんな概念が巣食っているのかもしれません。色々言われてはいても、結局は日本の医師の技術を信じたい、っていう。。もちろん分野によってはまさにそれが正解なのかもしれませんけど。
ただ、技術はいつか追いついてくるかもしれませんが、私が最も懸念するのはその先の部分です。
入院無しのお手軽手術?、ほっときゃ治る?、命を落とす手術でもない?、SRSくらい自分にもできる?、患者は実験台?、社会的認知が低いから責任も薄い?、手術だから痛い辛いは当たり前?、所詮造りものだから?、等々。。SRSは執刀医の慢心のためのものではありませんよね。手術結果だけでなく患者一人ひとりの人生を感じてほしいと思うんです。
本来なら全く受ける必要のない手術。でも生殖機能を捨ててまでもSRSを希望するGID当事者の気持ちを、日本の執刀医がきちんと受け止めてくれる時代はいつになることでしょうか・・・。