【医師監修】急性肺血栓塞栓症と、その予防について
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記者:
JWC 加地
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2023年1月28日
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急性肺血栓塞栓症とは?
急性肺血栓塞栓症とは、脚などに発生した血栓(深部静脈血栓症)が肺に移動し血管を詰まらせることにより、息が出来なくなるなど肺の機能を阻害する病気です。
この病気の危険なところは、事前に特に症状が出ないことが多く、突然発症し、死に至ることもあります。「エコノミークラス症候群」と言われると、聞いたことのある方も少なくないでしょう。
2018年に発表された論文によると、2011年には日本国内で100万人あたり126人が発症している事が分かります。
急性肺血栓塞栓症の症状
急性肺血栓塞栓症には、主に以下の様な症状があります。
- ふくらはぎに痛みが生じ、腫れてくる
- 突然、息苦しくなる
- 胸が痛くなる
- 血圧が下がる
- 脈が速くなる
- など
既にある血栓が肺に詰まることはありますか?
ふくらはぎの浮腫や血管の怒張(静脈が浮き出てくる)といった症状は、急性肺血栓塞栓症の原因となる深部静脈血栓症を疑わせる症状ではあるものの、陳旧性(元々ある古い)の血栓が肺に飛ぶという可能性は、あまり想定する必要はありません。
というのも、飛びやすいのは新鮮な血栓だからです。
もちろん、豊胸手術により埋め込んだシリコンもしくは創部の出血により、患部付近の細静脈が圧迫され血栓が形成される、そしてその血栓が肺に飛ぶ…という可能性も有りますが、細静脈である以上、そこに出来る血栓も太くて1〜2mm程度となります(乳房周囲には太い静脈はありません)。
一方、下腿(ふくらはぎ)の深部静脈は10〜15mmの太さが有り、こう言った太い静脈に出来た血栓が飛んで初めて、『肺動脈閉塞→肺塞栓症』という重篤な病態に至るのです。
小さな血栓は飛んでも肺動脈に詰まることはありませんし、血の流れが妨げられなければ、血液の血栓溶解能力で溶かされてしまいます。下腿(ふくらはぎ)の深部静脈以外では、妊婦の骨盤内静脈に、妊娠中に怒張して太くなった静脈内に形成された血栓が肺塞栓発症の原因となる報告もあります。
つまり、急性肺血栓塞栓症を予防するには、深部静脈血栓症を予防する必要があるのです。
深部静脈血栓症を予防するには、どうすればいいですか?
手術による入院で、身体を動かしにくい場合があるかもしれません。また、患部をかばったりして、無意識に身体を動かしていないと言う事もあり得ます。
静脈の血流は身体を動かすことで促進されます(マッスル・ポンプと言われる所以です)。ですから「寝たきり」「座りっぱなし」、と言う状況ではこのポンプ機能が発揮されず、特に下肢の静脈血うっ滯(静脈血が停滞している状態)を生じやすくなり、その結果、深部静脈血栓症発症のリスクを高めることになります。
その様な状況で、新鮮な血栓ができるのを予防するには、術後に、ベッド上で安静にしている期間をできるだけ減らす事が大切です。
手術により術後にベッドから降りることのできないものもありますが、その様な場合でも、身体の上半身を起こして何か作業をしたり、定期的に脚のストレッチ(特に足首や足指)をしたりして、血の流れを良くするようにしましょう。
また、術後は水分摂取が億劫になりますが、水分摂取量が少ないと血液が濃くなり血が固まりやすくなります。
術後はできるだけ意識して水分摂取を心掛け、血が濃くなり過ぎないようにしましょう。特に、珈琲や紅茶、エナジードリンクなどカフェインの入った飲料は、見た目で水分を摂っているようでも、逆に身体から水分を奪っていることがありますので、カフェイン飲料の飲み過ぎには注意しましょう。
まとめると、以下の通りとなります。
- ベッドから降りられなくともできるストレッチをする。
- 足首を回したり、足指を曲げたりする。
- ベッドから降りる許可が出たら、出来るだけベッド以外の場所で日中過ごすようにする。
弊社では、以前より以下の点にご協力をお願いしております。
- 術後でも出来るストレッチカードをお渡ししております。
- 術後の入院期間中は出来るだけ身体を動かす事が出来る様、定期的にサポートをさせて頂いております。
- 退院後は出来るだけ身体を動かす機会が増えるよう、日本国内の居住環境に近いコンドミニアムに滞在頂き、通院時に買い物送迎などを行っております。一般のホテルなどでは一見、過ごしやすいように見えますが、いわゆるリビング部分が狭く、ベッドに寝たきりになりがちです。
日本国内では、大腿骨骨折など比較的術後の身体的制限が大きい手術でも、深部静脈血栓症を予防するため、手術の翌日から離床・リハビリを開始するようになっています。深部静脈血栓症に対する薬による予防は、手術後のヘパリン(血液を固まりにくくする薬)使用ですが、これは手術箇所の出血を助長してしまうためハイリスク・ハイリターンな処置と言えます。
また、手術中や術後の弾性包帯・ストッキング等の着用といった対処法は、医学的には有効性は低く、その様な処置をしているからと言って深部静脈血栓症が起きないという保証はありません。
例外について
この様に、急性肺血栓塞栓症の予防には「術後になるべく身体を動かす」事が一番の方法となりますが、中には例外もあります。
例えば、血栓症の発生しやすい人(リン脂質抗体症候群など)はこの限りではなく、術前の検査でこの疾患を疑って検査を行い、予防的な抗凝固(血が固まりやすくなる事を防ぎ、血栓の生成を防止します)を術前から始める必要があります。
この様な持病を既にお持ちの方は、必ず、手術予約の際に弊社までご相談をお願いいたします。
監修医師
所属:武南病院 小野口 勝久 先生 胸部外科学会・指導医、心臓血管外科・専門医
※監修医師への直接の問い合わせはご遠慮下さい。