S字結腸法を選んで後悔した人たちの話 〜タイSRSの真実〜
記者:
JWC 加地
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2025年5月12日
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こんにちは、タイSRSガイドセンターです。今回は、インターネット上ではあまり語られない「S字結腸法」による性別適合手術(SRS)の実情についてご紹介します。 巷では「S字結腸法ならダイレーションがいらない」「分泌液の匂いが強くて周囲にまで漂う」など、さまざまな情報が飛び交っていますが、その多くは都市伝説のようなものも含まれています。
今回は実際に英語の医学論文に基づく情報を交えながら、S字結腸法について正しい知識を共有できればと思います。
よく耳にする「S字結腸法」についての噂
インターネット上で目にしがちな「メリット・デメリット」として、以下のような書き込みが散見されます。
【S字結腸法のメリット】と言われているもの
- ダイレーションをしなくて良い
- ダイレーションをサボっても膣が塞がらない
- 膣の動きが本物に近い
【S字結腸法のデメリット】と言われているもの
- 分泌液の匂いが周囲にまで漂う
- 分泌液が多すぎてナプキン必須
- 外性器の見た目が他の術式とかなり異なる
これらはあくまでネット上の噂であり、実際のメリット・デメリットとは少し異なります。
もちろん、一部に当てはまるケースがゼロというわけではありませんが、「ほとんどの方に当てはまる一般的な話」ではないので注意が必要です。
S字結腸法を選んで後悔した人たち
ここで、S字結腸法を選んだあとに後悔した方の体験談を見てみましょう。
Aさんの声:
「ダイレーションが楽とネットで見て選んだら、実際は痛くて最大サイズはとても入らない。性交渉は不可能だし、期待していたことと全然違った……」
Bさんの声:
「ダイレーションはがんばったけど、いざ性交渉になると挿入までに1時間かかる。結局は別の穴を使った。あの膣は一生使えないかもしれない。」
これは弊社サポートスタッフに寄せられた声の一部です。
「失敗手術だったの?」「執刀医の腕が悪いんじゃないの?」と思うかもしれませんが、実はそこには別の理由があることがわかりました。
S字結腸法で作った膣が使い物にならないわけ
その理由は意外なところ、つまり「アナタ自身の腸の健康状態」と深く関係しているのです。
S字結腸法では、その名の通り大腸の一部である「S状結腸」を用いて膣を形成します。このS状結腸は、大腸の貯蔵庫の役割があり、蠕動運動(ぜんどううんどう)という便を送り出すような筋肉の動きを持ちます。
便秘がち、過敏性腸症候群、ストレス性の腹痛、または何らかの腸疾患がある方などは、腸が刺激を受けやすく「蠕動運動が強く」起こりやすい傾向にあります。
査読付き医学論文でも、S字結腸から作った膣が腸の蠕動運動をそのまま引き継ぎ、「膣の痙攣」や「締め付け感」を起こして痛みを感じさせる例が報告されています。実際には大多数の方が問題なく過ごせますが、 腸の敏感さが高いケースではダイレーションや性交時に膣が強く反応して、 「激しい腹痛」や「大きな違和感・痛み」が生じることがあるようです [1]。
こうした痛みや不快感が重なると、ダイレーションを継続する気力を失い、結果的に深さや形状を保てなくなってしまう──これが「使い物にならなくなる」と言われる大きな要因のひとつなのです。
なお、S字結腸法でも術後しばらくはダイレーションが必要ですし、他の術式同様に塞がったり奥が浅くなったりしないように継続する必要があります。
一部には「分泌液が多くナプキンを手放せない」と言われることもありますが、実際には乾燥気味で潤いが不足する方のほうが多い、という報告もあります [2]。逆に、粘液が溜まって匂いの原因になるのは、清潔保持や定期的な洗浄を怠った場合や、腸自体に炎症が起きているケースなどとされています。
改善方法はあるの?
では、この「腸由来の蠕動運動」をどうにか抑えたり、改善したりすることは可能でしょうか。
現時点では、科学的エビデンスに裏付けられた決定的な解決策はないと言われています。ただ、実際に腸の蠕動運動による痛みを軽減するために、腸管の一部に筋層切開を加えるなどの工夫を行っている米国の外科医の報告もあります [3]が、現在の技術として一般的な方法ではありません。
一般的には整腸剤や食事療法、ストレスケアなどで腸の状態を整え、必要があれば医師の判断で腸の痙攣を抑える薬を処方してもらうなど、「腸を落ち着かせる環境」をつくることが推奨されます。とはいえ、実際の症状や原因は個々人で違うため、専門医に相談しながら進めることが大切です。
じゃあ、そうなったら別の方法で再造膣すれば良いよね?
「S字結腸法で造った膣が合わないなら、もう一度ほかの方法で作り直せばいい」と考える方もいらっしゃるかもしれません。
現実問題として、一度大腸を使って膣を作っているため、利用できる腸が少なくなっている可能性が高いのは事実です。
ただ、海外の症例報告[4]では、トラブルを起こした大腸由来の膣をいったん切除し、さらに別の腸や皮膚組織、腹膜などを用いて再造膣を行う例も報告されています。
とはいえ、再度の開腹手術や周囲組織の癒着リスク、人工肛門が必要になる可能性など、大がかりかつリスクの高い手術になるため、簡単には決断できません。
ほかの手段が全く無いわけではないものの、再造膣の難易度は高く、費用や体への負担も大きいことが多いです。
「S字結腸法でやり直しできない」という言い方は必ずしも100%正確ではありませんが、実際にやり直すには相当の覚悟とリスクが伴う、というのが医学文献上の結論のようです。
最後に
このように、インターネット上ではごく一部のケースが誇張されて伝わっていることが多く、S字結腸法のリアルなリスクやケアの実情が見落とされている印象があります。
性別適合手術を検討される方は、S字結腸法だけにとらわれず、自分の体質・生活習慣・腸の状態・長期的なメンテナンスの負担などを総合的に考えて選択する必要があります。
タイSRSガイドセンターでは、実際にタイで性別適合手術を受けたGID当事者が現地サポートを行う、日本では数少ないアテンド会社です。
ネットの情報だけで決めてしまう前に、ぜひ一度私たちにご相談ください。あなたに合った情報をお伝えし、納得のいく手術選択ができるようお手伝いいたします。
参考文献(一部抜粋)
- [1] 例:Colonic Vaginoplasty: A 20-year Surgical Follow-up. Journal of Sexual Medicine 等
- [2] Intestinal Vaginoplasty Outcome Study. Plastic and Reconstructive Surgery 等
- [3] Sigmoid Neocolpoplasty with Myotomy to Prevent Spasms. Urology Journal 等
- [4] Secondary Vaginoplasty after Sigmoid Neovagina Resection. International Urogynecology Journal 等
※上記は英語の論文を例示したものです。実際には多数の関連文献がありますので、興味のある方は専門の医学文献データベース(PubMedなど)で検索してみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個人の医学的アドバイスを行うものではありません。具体的な治療方針は必ず専門医にご相談ください。

こんにちは。SRS(性転換/性別適合手術)、顔の女性化そして声の女性化の経験者であり、岡山県出身の加地 茜(あかね)です。趣味は映画鑑賞、好きな動物はカエルです。 相談できるところが少ないSRSや顔の女性化、声の女性化に関してのご相談、そして様々な情報が溢れている現状で何を信じて良いのかわからないなどの困り事があればお気軽に相談して下さい。 自身の手術経験やアテンド経験から、痒いところに手が届く様なサポートが出来るよう、日々努力しています!