ガモン病院の日本人通訳がいても――それでも“アテンド”に頼った親の告白
記者:
JWC 加地
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2026年1月18日
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本稿は、実際に頂いたお声を参考に、個人が特定されないよう配慮したうえで、状況をわかりやすくするため表現を再現・再構成しています。あくまでも“読み物”としてお読み頂けると幸いです。
あなたは、なにが“決め手”でしたか?こちらまで、投稿をお待ちしております。
正直なところ、うちの子が「タイでSRSを受ける」と言った瞬間、私はうまく頷けませんでした。
頭に浮かんだのは祝福でも理解でもなく、値札と世間体。最低だな、と自分で思う。
けど、そうだった。
ガモン病院には日本人通訳がいるらしい。
メールすれば予約も取れる、必要な書類も案内してくれる、そんな話をいくつも読みました。
自力渡航でやり切った人の体験談も見た。立派だと思ったし、羨ましかった。私は無理だったんです。
いや、無理「だった」って言い方もズルいな。
怖かっただけ。
だって、親が子どもの手術の段取りを海外で回すって、胃が縮むじゃないですか。
英語もタイ語も「なんとなく」程度、時差も土地勘もない。しかもSRSですよ。
医療の話で、しかも下半身の話で、親がどこまで口を出していいのか、どこまで聞いていいのか、その境目がわからない。
わからないまま、決断だけ迫られる。喉が乾く。
実を言うと、私がアテンド会社を選んだ理由の半分は「安心」じゃありません。逃げ。
お金で不安を黙らせるやつ。手数料を見たときは「高っ」と思いましたよ、普通に。腹も立った。
けど、その腹立ちが妙に心地いい瞬間もあったんです。「高いから、私はちゃんとやってる親だ」って自分に言い聞かせられるから。
情けない理屈。
最初は「日本人通訳がいるなら自力でもいける」と思ったんです。ここが、私の失敗談。
術前相談の段階で一度、私が段取りを握ってみた。
航空券は安い深夜便、ホテルは口コミが良いところ、空港からはGrabで呼べばいい、って。
自分でも呆れるくらいネットの知識だけで組んだ。
結果?
バンコクの空港でSIMの設定がうまくいかない。
Grabが呼べない。
ホテルの住所を英語で見せてもタクシーの運転手が首を傾げる。
うちの子は不安で口数が減って、私も焦って声が荒くなる。あのときのロビーの照明の白さ、今でも思い出します。
結局、近くの日本人旅行者に助けられて、情けなくて情けなくて、帰りの機内で泣きました。
あそこで学んだのは「根性で何とかなる」じゃなくて、「根性で何とかしようとすると人を傷つける」ってこと。
だから本番のSRSは、アテンド会社に頼んだ。プライドは捨てた。というか、投げた。
アテンドの人は、手際がいい。
びっくりするくらい淡々としてる。
空港のピックアップ、ホテル、病院の受付、支払いの流れ、必要な買い物。
私が迷って立ち止まる前に、もう次の段取りが出てくる。ありがたい。
なのに、ありがたさと同じくらい、胸の奥がチクチクするんです。「私は何もできてない」って。親なのにね。
手術当日、待合の椅子に座っている時間が地獄でした。
短いのに長い。心臓の音だけがうるさい。周りのタイ語が波みたいに聞こえて、意味がわからないのが逆に怖い。
うちの子は強がって笑おうとしてて、その笑い方がまた痛い。私は何度も「大丈夫?」って聞きそうになって、飲み込んだ。
しつこい親に見えるのが嫌で。そういうところ、私は本当に嫌な人間だと思う。
あなたなら、親戚や職場の人に何て言いますか?
「子どもがタイで手術を受けに行きます」なんて、口に出せます?
私は無理だった。
だから嘘をついた。「少し長めの旅行」「検査があって」。
便利な言葉で薄めた。薄めれば薄めるほど、後味が悪いのに。
術後のホテルで、うちの子が痛み止めでうとうとしてる横で、私はスマホの通知ばかり見ていました。
LINEのスタンプがやけに明るく見える。笑えない。
アテンドの人が「食事はこれがいいですよ」と言ってくれて、私は頷いて、また頷く。
自分の判断が怖いんです。間違えたくない、責任を取りたくない。
親のくせに。
でもね、術後数日たって、うちの子が鏡の前に立ったときの顔を見たら、私は泣いた。
ああ、そうか、これがこの子の欲しかったものなんだなって腹の底で理解した瞬間があった。
嬉しい。
確かに嬉しい。
そこだけは嘘じゃない。
それなのに、その直後に思ったのが「戸籍の手続きどうする」「保険は」「会社にはいつ何て言う」「親戚の集まりは」なんですよ。
夢みたいな時間が一瞬で現実に塗り替えられる。私はロマンチストじゃない。
世間体の奴隷。悔しいけど、そういう親が日本には多いと思う。
私だけじゃない、って言いたいわけじゃない。自分を軽くしたいだけ。
それと、これも恥ずかしくて言えない本音なんだけど……私は「アテンド会社に頼んだ」ことを、どこかで見下されるんじゃないかって怯えてました。
自力でできる人が偉い、みたいな空気。自分で調べて自分で動いて当然、みたいな正しさ。
あれ、息が詰まる。頼ったら負け、みたいな。私はその空気が嫌いです。心底。
なのに自分も同じ物差しを持ってるから、余計に嫌になる。矛盾の塊。
あなたは、子どもの人生の決断に親がどこまで付き添うべきだと思います?
私は今も答えが出ません。付き添いすぎても支配になるし、放っておいたら「冷たい親」になる。
結局、私は世間の目に合わせて右往左往してるだけ。みっともない。
ガモン病院の日本人通訳さんに連絡すれば、たぶんもっとスムーズに自力で行けたんだと思います。
そこまで整っているのに、私は「整っている」ことすら信じ切れなかった。
だからアテンド会社というもう一枚の緩衝材を挟んだ。安全策、という言い訳。
現地でアテンドの人が淡々と動く姿を見て、安心しながら同時に惨めにもなって、感情が忙しい。
今、帰国して、洗面台の引き出しに薬の袋が入ってるのを見るたびに、胸がザワつきます。
何かを達成した誇らしさじゃなくて、「これを一生隠し通せるのか」って不安。そういう不安を抱えたまま、うちの子は毎日ちゃんと生活してる。
強い。私よりずっと。
私が言えるのはこれだけ。
私は綺麗な親じゃない。
優等生でもない。
だけど、うちの子が自分の体を「これでいい」と思える瞬間を増やしていくなら、私はその横で、みっともなく揺れながら立っていくしかないんだと思う。
息を整えたり、取り乱したり、また黙ったり。
そんな日々。
本稿は、実際に頂いたお声を参考に、個人が特定されないよう配慮したうえで、状況をわかりやすくするため表現を再現・再構成しています。あくまでも“読み物”としてお読み頂けると幸いです。
あなたは、なにが“決め手”でしたか?こちらまで、投稿をお待ちしております。
こんにちは。SRS(性転換/性別適合手術)、顔の女性化そして声の女性化の経験者であり、岡山県出身の加地 茜(あかね)です。趣味は映画鑑賞、好きな動物はカエルです。 相談できるところが少ないSRSや顔の女性化、声の女性化に関してのご相談、そして様々な情報が溢れている現状で何を信じて良いのかわからないなどの困り事があればお気軽に相談して下さい。 自身の手術経験やアテンド経験から、痒いところに手が届く様なサポートが出来るよう、日々努力しています!






